異常気象や海面上昇、氷河の崩壊――。温暖化による地球規模での異変が経済や社会を脅かし始めた。未曾有の危機を乗り越えるには、最先端の環境技術を十分に活用することが求められる。環境先進国・日本の新たな挑戦が始まっている。

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温暖化国際交渉、COP16の意義
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温暖化国際交渉、COP16の意義
昨年末、メキシコ・カンクンで国連気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)が開催された。国連の条約に先進国の数値目標が組み込まれるなどの成果を上げた一方で、「京都議定書延長問題」の議論が激しさを増し、「ポスト京都議定書」の答えは見つからないままだ。低炭素化を目指す世界における、COP16の意義を検証する。
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シリーズ「地球の悲鳴」

NATIONAL GEOGRAPHIC 日本語版

ビッグメルト 消える氷の大地

滑りだすグリーンランドの氷河
解けた氷が氷床の崩壊を加速させる現実

 スイス生まれの気候学者コンラッド・ステフェンは過去15年にわたり、グリーンランドの内陸に観測キャンプを設けて、氷の状態を調べてきた。昨年の夏、再びグリーンランドを訪れたステフェンは、沿岸の町イルリサットに滞在し、ヘリコプターで内陸部のキャンプに飛び立とうと待機していた。「至る所で、異変を肌で感じます」と、ステフェンは話した。

 沖合に目をやると、薄明かりのなか、銀色に輝く氷山の小さな塊がいくつも浮かんでいた。海面に漂う数多くの氷山は、目に見える形で異変を知らせている。これらは近くのフィヨルド(氷河の浸食でできた湾)の奥、ヤコブスハン氷河から崩れて、沖に流れていった氷山だ。

 氷は、その一片を手に取ってみれば石のように固い。だが、固体の氷も、大量に集積すると水飴のように粘性をもち、ゆっくりと流れだす。グリーンランドでは、日本の国土面積の5倍近い広大な氷床が、内陸から沿岸に向かって流れている。陸上で踏みとどまるものもあるが、そのまま海に流れ込む“氷の河”もある。

 ヤコブスハン氷河は幅6.5km、厚さはほぼ1kmあるグリーンランド最大の氷河である。その流速はこの10年で2倍になり、1日に約37mも進むようになった。今では、毎年46km3の氷の塊が海に流れ出し、フィヨルドでは次々に新しい氷山が生まれている。

 グリーンランドの別の場所でも、氷河の流れは速くなっている。昨年、NASAの研究者リグノットは衛星のレーダー観測で、グリーンランド南部にある氷河のほとんどで、流速が増していることを突き止めた。リグノットの計算では、グリーンランド全土で2005年に失われた氷は224km3に達する。これは、 10年前と比べて2倍以上の量で、科学者たちの予想を大きく上回る。「氷床の崩壊が始まったようです」と、グリーンランドと南極の観測を指揮するNASA のワリード・アブダラティは警告する。

 ヤコブスハン氷河の流れが速まるのと同時に、氷河の先頭で海に浮かんでいる先端部も崩れて後退し始めた。2000年以降、ヤコブスハン氷河の先端は 6.5km後退した。グリーンランドのほかの氷河でも、先端が部分的に崩れたり、全壊してしまったところは多い。実は先端が崩れたために、氷河の流れが速まっている可能性がある。「先端に浮いた氷は、陸側にある氷が海に流れ出すのを食い止める役割を果たしています。その氷が解けてしまうと、ちょうど栓が抜けたように氷河が海に流れ込んでしまうのです」と、アブダラティは説明する。

 グリーンランドの気候は、明らかに暖かくなった。ステフェンの観測キャンプの冬の気温は、93年に比べて約5℃上昇し、大西洋の水深数百mの水温も 0.5℃ほど上がっている。そのため氷河の先端は、空気に触れる上面だけでなく、水中からも解けだしている。フィヨルドに浮いた氷がすべて崩れてしまえば、崩壊の加速が収まる可能性もある。また、グリーンランドの岩盤は、氷床の重みで巨大な盆地のように沈んでいて、その多くが海面下にある。氷河が後退すれば、それを追うように海水が低地に流れ込み、内陸に残った氷をあっという間に海へ滑らせてしまうかもしれない。

 今すぐにグリーンランドの氷が解けて、海面が大幅に上昇するということはない。衛星を利用して海面を観測しているスティーブン・ネレムによると、これまでのところは1年に3mmのペースで海面が上昇しているという。このままなら2100年には海面が約30cm上昇する計算で、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が今年発表した予測とほぼ一致する。

 一方、グリーンランドでの異変を間近で感じている研究者の多くは、2100年までに海面が1m上昇する可能性があると考えるようになった。氷河の流速を測定するリグノットは、この予想でもまだ甘いかもしれないと考えている。グリーンランドの氷が解ければ、海面は最終的に3m上昇するおそれがあるというのだ。「数百年単位でなく、あと100年でそれだけ上昇するという非常事態もあり得ます」

 観測キャンプへの出発を待っていたステフェンのチームに話を戻そう。観測チームはヘリコプターで8kmほど内陸に向かった。着陸したのは、氷のあちこちに穴が開いた一帯だ。内陸から流れてくる氷の一部は、氷床の「消耗域」と呼ばれるこの辺りで解ける。訪れたのはちょうど8月で、まさに氷がどんどん解けるシーズンだった。広大な氷原のあちこちに解けた水がたまり、一面真っ白な氷の風景の中を縫うように、真っ青な水をたたえた川が流れていた。

 こうして、解けた水が氷の上を流れると、氷床の崩壊にさらに拍車がかかるようだ。ステフェンらが初めてこの負のフィードバック効果に気づいたのは、10年前のことだ。NASAの科学者ジェイ・ズウォリーがGPS(全地球測位システム)を使って、氷河の流速を2年ほど続けて測定したところ、興味深い関係が浮かび上がった。氷の表面が解けるにしたがって、氷河の流れが速まることがわかったのである。
 

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