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ECOラボ
2020年の主役を追う
「発電する宝石」が創る未来[後編]
「究極素材」から
量産発電素材を探索へ
名古屋大学・太田裕道准教授
温度の差を直接電力に変える「熱電変換素子」には、これまで、稀少なうえに有毒で融点の低い重金属の合金が使われてきた。名古屋大学の太田裕道准教授は、従来の素子より変換効率が高く、無毒無害で高温でも安定な酸化物「チタン酸ストロンチウム」の創製に成功。『Nature Materials』誌上で発表し、大きな話題を呼んだ。
チタン酸ストロンチウムは人工宝石としても知られる物質だが、それを「発電する宝石」にするために、原子を層状に積み重ねながら狙い通りの結晶構造を作り込む「エピタキシャル結晶成長法」という手法が使われている。略して「エピ膜」と呼ばれる薄膜結晶のプロフェッショナルである太田准教授に、その先にどんな世界が広がっているのかを聞いた。
◆
結晶と聞いて、まず「雪の結晶」を思い浮かべる人も多かろう。雪は雲のなかの細かなチリを核に、水蒸気が凝結し成長してできたもの。それを世界で初めて人工的に作ったのが、「雪は天から送られた手紙である」という言葉でも知られる物理学者、中谷宇吉郎(1900-1962)だ。写真は中谷の手による雪の結晶図。同じ「H2O」の結晶でありながら、わずかな条件の違いで、これほどまでに違う形状が生み出される……。顕微鏡に見入りながら中谷が抱いたであろう自然への畏敬の念が、このスケッチに込められているように思える。

さて、自然はこれほどまでにバラエティーに富む形状を生み出すことができるが、逆に考えると、狙い通りの結晶を作ろうとしても、わずかな環境条件の違いから、まったく異なる結果がもたらされる、ということでもある。
太田准教授の作った「発電する宝石」は、ストロンチウムと酸素とチタンという三つの元素からなるチタン酸ストロンチウムの層と、そこにニオブ(元素記号Nb)という元素を加えて導電性を持たせた層を交互に積層することで作られたもので、自然界には存在しない「人工超格子(スーパー・ラティス)」と呼ばれる結晶構造を持っている。そうした物質を作り出すためには、膨大な数の試行錯誤や条件調整が必要だったに違いない。
結晶成長の台座となる「サブストレート(基板)」の前処理、パルスレーザーの出力やタイミングの調整、内部の真空度、温度、雰囲気……。
しかも、今回創製された物質は、単にチタンと酸素とストロンチウムの層と、そこにニオブをドープ(注入・添加)した層をただ交互に積み重ねてつくっただけではない。その繰り返しがある一定の周期を持っている点が、熱起電力をもたらすうえでまず重要なことなのだという。
だが、さらに重要なのはニオブ添加層の「厚み」だ。それは、わずかに0.3905ナノメートル。1000倍して0.3905ミクロン、さらに1000倍しても0.3905mmにしかならない、ごくごく薄い層。さらに難易度は高い。
そこには固体物理の世界でいう「2次元電子ガス」と呼ばれる電子のシートが形成され、「量子サイズ効果」と呼ばれる「あるサイズ以下の狭い領域に閉じ込められた電子が見せる、特異な振る舞い」が見られる。それが“巨大”な熱起電力につながっている。
ニオブをドープしただけのチタン酸ストロンチウムと、周期的な層構造をもつものとを比べると、実に5倍もの熱起電力の差が生じるのだという。
パイ生地とクリームを幾重にも重ねたフランス菓子の「ミルフィーユ」(原義は千枚の葉)は、クリームの層があるからこそパイ生地の食感が生きる。今回のニオブの層もまさにクリームの層の役割を果たしている。固体物理の世界では、異種原子による結晶格子の繰り返し構造をスーパー・ラティスと呼ぶが、そうした構造を自在に作り込み、新物質や新記録や新製法を見いだしてきた太田准教授は、まさに“スーパー・ラティシェ”と言ってよい存在かもしれない。



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