異常気象や海面上昇、氷河の崩壊――。温暖化による地球規模での異変が経済や社会を脅かし始めた。未曾有の危機を乗り越えるには、最先端の環境技術を十分に活用することが求められる。環境先進国・日本の新たな挑戦が始まっている。

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温暖化国際交渉、COP16の意義
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温暖化国際交渉、COP16の意義
昨年末、メキシコ・カンクンで国連気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)が開催された。国連の条約に先進国の数値目標が組み込まれるなどの成果を上げた一方で、「京都議定書延長問題」の議論が激しさを増し、「ポスト京都議定書」の答えは見つからないままだ。低炭素化を目指す世界における、COP16の意義を検証する。
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伊藤洋一の『BRICsの衝撃』

興味溢れるGNHというアイデア
アジアの小国・ブータンの提案

ツルが舞い降りる生活を選択

 それは住民と政府の間で、「電線は引かない」という合意が成り立っているからである。電気を拒否しているのではない。ホテルには太陽光発電の装置があり、それが一定時間電気をホテル施設に供給しているし、各農家には政府から同じく太陽光発電装置が無償で供与されているという。しかし、基本的には一日数時間の限られた電気供給であって、村全体として夜は基本的にはロウソクの火が最も頼りになる明かりという生活をしている。

 なぜか。ここが重要なのだが、それは「ツルが毎年来る」という自然環境をいつまでも保全しようとしているからだ。ではなぜブータン政府と住民が「電線を引かない」「電気がごくわずかしかない生活でも我慢できる」という結論に達したか。それは「電線を張ってツルの生態の邪魔をしたくない」という考え方で意見が一致したからだ。政府も住民もだ。住民たちは、「自分たちは農民で、夜遅くまですることなどなく、よって電気は最小限あればよい」という意見だった。村長を初めとする全員で合意したという。だから本当にこの村には電柱も電線もない。日本であったらありえない選択だ。誰もがテレビを欲しがり、洗濯機を欲しがったはずだ。しかしポブジカはそれを拒否して、「ツルが舞い降りるこれまでの生活の継続」を選択した。

 考えてみればこれは、先進国の多くの人が忘れていた発想である。日本を含む先進国では、「次々」と製品を進歩させ、環境を変えることにちゅうちょせず、皆が経済の成長率を話題にする。口を開けば「景気が悪い」と嘆く。しかしポブジカの人々は、ツルと自分の住む環境を保持するために電線を拒否した。「今のままでいい」と。この「今のままでいい」という考え方が、ブータンにおけるGNHの考え方のベースになったという。

 もちろんブータンならではの面もある。繰り返すが、この村に住む住民の大部分は農家の人々だ。もともとそれほど夜に電気が必要となるような生活をしていない。夜になったら寝ればいいし、夜が明けたら働けばよいという生活だ。またブータンの人々は輪廻転生を中心とする仏教の教えを深く信じている。そういう影響もある。しかし我々先進国の人間には、このポブジカの人々の選択が非常に新鮮に見えるのである。

 「電気が限られた生活」は旅行者である我々にも課される。ポブジカのホテルで電気が使えたのは午後6時から午後9時半。太陽光発電で蓄電された電気が供給された。だから弱い。それが過ぎれば電気は止まる。完全に。だから、午後9時半からはヘッドライトとロウソクの火で部屋の中は過ごした。電気が使えるうちにシャワーを浴びなければ大変なことになる。新鮮な驚きだ。しかし「こういう生活もありかな」とも思う。

 ブータン政府は、国連加盟に当たってポブジカでの経験をもとに、今の支配的な経済指標である「GNP」に対して、国民の健康や幸せの度数を計る「GNH」という考え方を提唱した。そしてそれが今世界の環境問題を考える上で一つの大きな潮流となりつつあるのだ。

 次回は、GNHという考え方の国・ブータンの実情を紹介する。環境問題を別の視点から見るために。
 

伊藤洋一 氏伊藤 洋一 氏 (いとう よういち)

1950年長野県生まれ。現在、住信基礎研究所主席研究員。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。筆者HPは http://www.ycaster.com/

幻 冬舎の月刊誌『ゲーテ』、共同通信社、『日経ビジネス』などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。著書に最新刊として『ITとカースト:インド・成長の 秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える』(新潮新書2006年)。その他『上品で美しい国家』(ビジネス社 2006年)、『スピードの経済』(日本経済新聞社 1997年)、『ビッグバン時代のネット活用術』(東洋経済新報社 1998年)、『グリーンスパンは神様か』(TBSブリタニカ 2001年)。訳書に『グリーンスパンの魔術』(日本経済新聞社 2000年)『欧州の挑戦』(時事通信社 1992年)など。

現 在出演中の番組は、テレビ朝日「やじうまプラス×2」(毎週木曜日朝6時)、関西テレビ「ニュース・アンカー」(毎週火曜日、番組は午後5時から)、テレ ビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」(土曜日、月1回程度)、TBSラジオ「森本毅郎スタンバイ」(毎週金曜日朝7時台)、ラジオNIKKEIの 「Roundup World Now」、「Asia today」、「マーケット・トレンド」など。

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この記事の目次
興味溢れるGNHというアイデア
アジアの小国・ブータンの提案

エネルギー技術 太陽光発電

エネルギー消費 家庭部門

温暖化の影響 異常気象/生態系