


COP15、温暖化交渉を読む
コラム
伊藤洋一の『BRICsの衝撃』
カーストと貧困のインド[前編]
「豊かさへの渇望」が生む破壊
中国を書いた際にも、「貧困と環境問題」が密接に関連していることに触れた。もちろん度を超した工業化も二酸化炭素(CO2)などを排出して環境を汚染するが、その一方で、工業化が進む過程で社会が豊かさに近づくと、目標としての「より豊かな生活」の欠かせない一部として、「環境を守らなければそれが実現できない」という意識が芽生える。「豊かな生活」には綺麗な空気、汚染されていない魚が棲む川、緑の大地、そして自然と人間との交流が含まれる。それが、今の先進国での環境論議への発展である。
しかし「豊かな社会」への接近がない社会や貧困に喘ぐ人々の間では、しばしば「環境意識」は二の次、三の次になってしまう。生きていく方が先だからだ。貧しくても、社会全体の均衡が取れていてゆったりとした変化のなかにある場合には、身の回りを綺麗にしようという意識が働くが、今のように社会の変化が激しく、貨幣社会が進むなかでは貧しい人々の焦りは凄まじいから、「豊かさへの渇望」のなかで、まるで共同体への配慮が欠けた行動が見られる。
人々は、燃料がないと勝手に森に入り込んで木を集め、時には切ってそれを燃料にして煮炊きをする。インドの都市近郊の道を走っていると、明らかに一家と思われる数人の集団が森の中で木を拾い、火を起こし、自然を破壊しているのに出くわす。農村で行き詰まった一家や集団が、都市に来ても職業がない場合には、しばしば都市の周りで必死に生きようとしているのだろう。
インドの貧困は「カースト」と実に密接に関連している。これは私の印象だが、インドの人々と付き合うなかで一番驚くのは、自分とカーストが違う人々に対する実に冷めた、突き放したような態度である。どこの社会でもそうしたことはあるのかもしれないが、私はしばしば、「彼らは違うカーストの人を、同じ国の国民だと思っていないのではないか」との印象を受けた。本当に冷たいのである。


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