


COP15、温暖化交渉を読む
コラム
伊藤洋一の『BRICsの衝撃』
「環境」よりも、まず「脱貧困」
荒々しい、かつ異形の成長経済を推進するなかで、それでは当の中国の人たちは、都市環境の急激な変化、それに空気や河川を汚染する環境破壊を伴った自国の姿をどう考えているのか。この問題に関して、筆者は訪問するたびに中国の人々から非常に興味深い発言を何回も聞いた。思ったのは、「それぞれの国にはそれぞれの国民の置かれた状況、それぞれの考え方がある。自分勝手な理解は現状把握にとってマイナス」というものだ。
中国の人々との対話で最初に衝撃を受けたのは2002年である。変化する上海を取材するテレビ番組で、数日間、急成長を開始した、この川沿いの古い国際都市に滞在して、多くの中国の人に取材した。日本ではようやく上海の発展が注目され始める一方で、「古き良き上海が壊されていることは残念。中国の人々もあまりよく思っていないのでは」といった意見もあった時期だ。変わりゆく上海に対して、日本ではやっかみ半分に「開発優先の破壊」「都市の景観が損なわれる」といった意見が確かにあったのだ。
日本人の一員である私は、何回もこの質問を上海の人にぶつけてみた。しかし実に見事に、彼らの答えは、「今がいい」「これでいい」で一致していた。超高層マンションに見下ろされている古いアパートの汚い共同キッチン、共同シャワーの一室に住む一家の主婦は、「隣にあんなのが出来て、癪に障らないのか」と聞いたら、「いや、ここも開発が着手されれば、私たちももっと広い、一人一部屋の家に住めるから」と開発を手放しで喜び、その拡大を待ち望んでいた。「近く自分も入れるから」という論理だった。そのアパートは、一家4人が一部屋に住んでいるような凄まじい状況だった。
次に、朝の公園で女性主体のパラパラ(日本のそれが変形して取り入れられていた)踊りを見ていた数人の老人(男性)に話しを聞いたが、彼らも異口同音に「上海はこれでいい。よくなっている」と語ったのだ。古いモノが壊されていくことへの郷愁は何もなかった。まったくゼロだったのだ。言わされているのだろうか、と考えた。いや、とてもそうは思えなかった。普通なら古いものに郷愁を持つ老人でもそうだった。



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